性交痛解消ガイド

Q.「挿入で痛いなら、挿入しないセックスだっていい」と視点を変えてみる発想は画期的でした。その上で、ラブグッズ使用の可能性を示唆した経緯を教えて下さい。

閉経を迎えた年代は、女性ホルモンの減少で潤い不足からくる性交痛に悩まされたり、同年代のパートナーもEDなど性機能の低下がみられることは、個人差はあれ体の自然な変化です。妊娠を望むわけでもないので、お互いにムリして挿入にこだわる必要があるのかと疑問に感じたのがきっかけです。

世の中、こうするものと信じているものが、実は従う必要がないことは、沢山あります。例えばお化粧。「女性はするもの」「身だしなみ」などと、必要性を感じなくても、なんとなくそれに従ってお化粧を続ける。でもお化粧は法律で義務付けられたことではないですし、周りを見渡せば、スッピンで過ごしている女性がいることに気が付きます。

アダルトグッズは、今までの私の勝手なイメージだと若い人たちや男性中心の比較的、性に感心が高い人だけが使うものと考えていました。しかし、販売されている商品やコンセプトを読むとそれは勝手な思い込みと気づき、私のような普通の中高年でも楽しく使っていいという考えになりました。そしてその年代が抱える性機能の悩みを、新しいセックススタイルでカバーできると思ったのです。

Q.性交時に出る痛みをQOL にも大きな影響を及ぼす「健康問題」として捉えていらっしゃいます。この考え方はいつ頃からお持ちでしたか。

12年前にこの仕事を始めたと時に、並行して「性の健康」に関して勉強を始めたのですが、その時からですね。

Q.「性交時の不安は情報不足から来ていること」とおっしゃっています。

 「FuanFree/ふあんふりー」開設はそれを補う目的でしょうか。

はい、その通りです。例えば腰痛なら、治療や、痛くない姿勢を工夫したりします。でも性交時の痛みは、同じ体のことなのに医療機関へ相談しづらかったり、パートナーに申し訳ないと思ったりしてややっこしくなります。もっとシンプルに、これは健康問題ということ、それに関する知識や情報をお伝えしたいと考えました。

Q.「FuanFree/ふあんふりー」における、ラブライフアドバイザーの OliviA氏、公認心理師の潮英子氏とのコラボはどのような成果を得られましたか。OliviAさんと

OliviA先生は、性の喜びやそれにつながる工夫の提案に長い間取り組まれてきた方です。その中でも体位については、本の執筆をはじめ、実際にとても研究されています。性交時の痛みは、女性側の原因とは限らず、挿入角度で痛みが生じることも指摘されています。それをグッズも不要で、ただ体の向きを変えるだけで解決できる素晴らしいアイディアを教えていただきました。

潮先生は、性の悩みも相談できる日本にいる数少ない公認心理師です。またセックスの技術面まで指摘できる経験豊かです。性交時の痛みと心がどう関係しているのか、教えていただきました。またカウンセリングは一般の人にとって、未知なことが多いですよね。カウンセリングとはどんなものなのか、具体的に教えていただきました。

Q.小林さんご自身も性交痛当事者として長年悩んだ経験がおありだとうかがっております。「5~7割痛みが減少するだけで別世界、日常まで明るく変化をする」とは朗報です。

「性交→痛い→無理」という心の壁を崩すきっかけは小林さん自身、どんなことでしたか。

偶然、海外の潤滑剤を販売することになり、仕事にしたのがきっかけです。仕事にするからには「使ってみよう」と使ったら7割ほど痛みがなくなりビックリしました。

それまでは、どの婦人科で診察しても原因がわからず、とても悩んでいたからです。国内の潤滑剤は婦人科をイメージさせるピンク色中心のデザインで、痛みを思い出すので買うことができませんでした。輸入予定だった海外の潤滑剤は、アイディグライドというのですが、すっきりしたデザインで色もブルー、ハードルがすっと低くなり心の壁がとれました。

Q.2020 年、自社ブランド商品である Your Side発売の経緯をお聞かせください。

日常生活のアイテムとして常備してほしいと長年の思いがありました。でも実際はそんなにセックスしないし使わない。だから普段の保湿ケアにも使えるものを作れば、日常アイテムとして成り立つのではないかとブランドを立ち上げました。

Q.Your Sidesと「FuanFree/ふあんふりー」の関係についてお聞かせください。

YourSideには「あなたの味方」「そばにあってよかった」と2つの意味があります。性交時の痛み、デリケートゾーンの不快感をもつ方のためのケア用品ですが、それだけでは当事者の問題が解決できない部分をFuanFreeで、情報として提供できたらいいなという発想から生まれた関係です。

Q.「婦人科で検査しても、身体的な治療は完治しているのに、一向にセックスの痛みがよくならい」。セックスカウンセリングは女性には、精神的・費用的にもハードルが高い印象がありますが、セックスカウンセリングに躊躇されている方に、コメントをいただけますか。

心の問題は、自分が思っている以上に人生を支配されていることが多いです。セックスが(痛くて)怖い、嫌い、面倒くさいという問題は、特にパートナーがいる場合は常に心にひっかかりながら生活をすることになります。パートナーがいない場合は誰かとお付き合いをすることをやめてしまうことも。

そういう心のひっかかりが取れた時の、清々しさを知ってほしいなと思います。

先ほどの腰痛を例にすると、マッサージを受ける施術代はだいたい10,000円/60分。腰痛が取れるから、その対価を払います。症状によっては数か月通いますよね。カウンセリングも同じように考えるとハードルが高く感じないのではないでしょうか。

Q.アダルトローションは粘り気が強すぎるとのご指摘があります。アダルトグッズ製造メーカーについてご意見、アドバイスをお願いします。

特にアドバイスないです。理由は、私は粘り気のあるローションは、挿入に使わずボディ上で楽しむものと理解しているからです。エンタメ的にとても楽しいものだと個人的に感じています。

手ごろな価格だから、たっぷり使えてボディ上でヌメリを楽しめるコミュニケーションツールだと思います。

女性は、体に触れられることで、性的な興奮が増してくる構造になっています。興奮を高めるお助けアイテムではないでしょうか。

Q.「性の権利」という考え方はとても新鮮に受け取れます。女性にとって「性の権利」とはどんなものですか。

大元を解説すると長くなるので、ここでは性交時の痛みと関係することに特化したところのみ説明します。

性というと、女性にとっては妊娠と強く結びついていますが、それだけに留まりません。生殖に関わらず、私たちは誰もが健やかな性生活をおくれる権利があるとしています。痛いということは健康を害していること。必要な治療や工夫で痛みが少ない性生活がおくれることが重要です。また、性生活が心から喜びと満足があることもその人の幸福度に関わる重要なこととしています。

痛みのある性交を続けていくことは、裏には婦人科疾患が隠れている場合もあり、病気を教えてくれる警報であることもあります。我慢しない、放置しないことが、心身共に健やかな生活をおくれることなのだと私は考えています。